不妊治療とはどんなことをするのか?治療法の具体的な方法とリスクの話
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結婚をして、妊娠を望む夫婦にとってなかなか赤ちゃんに恵まれない現実は、つらい日々ですよね。そこで、今回は不妊治療とは具体的にはどんなことをするのか、また治療法にはどんな方法があるのかについてご紹介します。
そもそも不妊とは?
不妊治療のお話をする前に、「不妊」とはどういうことなのかについてご説明します。一般的に不妊とは、赤ちゃんを望む夫婦が、避妊などをせずに夫婦生活を営んでいても1年経っても妊娠に至らない状態のことを「不妊症」と定義されています。
不妊に悩む人の裏にある背景
不妊に悩む人にある背景として挙げられているのが、近年晩婚化が進んでいる傾向があることです。2001年のデータでは、男性の初婚年齢の平均は、29.0歳、女性の初婚年齢の平均は、27.2歳でしたが、2016年の調査では、男性が31.1歳、女性が29.4歳になっていて15年の間に男女ともおよそ2歳あがっています。
このグラフは合計特殊出生率を表したものです。合計特殊出生率とは、人口統計上の指標で、一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均を示した数字です。第一次ベビーブームと呼ばれていた昭和22~24年の合成特殊出生率は4.32だったのに対して、平成17年には過去最低の1.26にまで落ち込んでいます。
平成23年には、1.39とわずかながら増加しましたが、1人の女性が子どもを産む人数はどんどん減少しています。
このグラフは、子どもを産んだときの母親の年齢を表したものです。平成12年では、子どもを産んだ母親の年齢が一番多いのは25~29歳でしたが、平成23年には30~34歳が一番多くなっています。
結婚をする年齢が男女とも年々上がっているのでそれに伴い、子どもを産む母の年齢も高くなっています。
女性の場合は、妊娠しやすい年齢が限られているため、妊娠を望んだときには妊娠しにくい年齢になってしまい、結果として不妊に悩む女性の人数も増加していることが考えられます。
もちろん、不妊の原因は女性だけにあるわけではありませんが、不妊に悩む夫婦が増加している背景にはこういった事情も関係しているのではないかと考えられています。
不妊の原因が男性側にある場合が約半数ある
世界保健機構(WHO)の報告によると、不妊の原因が男性側のみにある場合が24%、男女両方に原因がある場合が24%で、この数字を合わせると不妊の原因の48%が男性側に原因があるという結果が出ています。
男性の不妊の原因の主なものは、「造精機能障害」で82.4%を占めています。精子の数が少ない「乏精子症」や精子の動きが悪い「精子無力症」などは、精液の見た目からでは判断することができません。子どもになかなか恵まれず不妊治療を希望する場合は、女性だけではなく夫婦一緒に検査や治療を受けることが必要です。
卵子も精子も劣化する
女性の場合、母親の胎内にいるときにすでに卵子のもととなる一生分の原子卵胞を抱えているといわれています。原子卵胞は何十年も生きることができる特殊な細胞ではあるのですが、女性が年齢を重ねると同時に卵子も一緒に歳を重ねることになります。卵子(原子卵胞)は自然に消滅してしまうものがあります。それに加えて排卵時にも排出されるので持っていた卵子(原子卵胞)がすべてなくなってしまうと、卵子を作り出すことができなくなります。つまり、女性の場合は卵子の劣化だけではなく卵子の数にも限りがあるということです。
一方、男性の場合、精子のもとになる細胞を作りだすことができるので何歳になっても精子を作り出すことができます。しかし、男性の場合も年齢を重ねると精液に含まれている精子の数が「減少する」、「奇形率が高くなる」、「運動率が悪くなる」といった結果があります。
つまり、女性だけではなく男性の精子も年齢とともに劣化してしまうということです。年齢と精子の関係を調べると、男性の場合も30代になると精子の劣化が始まる人もいるといわれています。このようなことから妊娠を望む場合は、夫婦ともに早めの検査や治療が必要になるということがわかります。
2パターンの不妊治療について
不妊治療には、保険が適用される治療と保険適用外になる治療があります。この2つの治療についてさらに詳しくご紹介します。
保険が適用される不妊治療
保険が適用される治療には以下のものがあります。
- 1.排卵誘発剤などの薬物治療
- 2.卵管疎通障害に対する卵管通気法、 卵管形成術
- 3.精管機能障害に対する精管形成術
- 4.タイミング法
排卵誘発剤による治療
排卵誘発剤とは、卵巣を刺激して卵巣機能を高め、よい排卵を促すために行われる治療です。排卵誘発剤を使う主な目的は2つです。
1つは、卵巣機能が低下していて排卵がしにくい状態になっている人に対して、排卵を促すことです。2つめは対外受精を行うときに良好な卵子を多く得ることを目的として使用されます。通常であれば、卵胞は1つだけしか発育しないようになっています。ですが、排卵誘発剤を使うと薬剤の種類によっては複数の卵胞が発育して排卵されることがあります。
排卵しにくくなっている人に対して排卵を促すことができますし、また一度に複数の卵子を排卵させることで妊娠の確率を高めることができるので、不妊治療においては欠かすことのできない治療法の1つになっています。
卵管通気法
卵管通気法とは、卵管につまりがないかを確認する検査です。検査の方法は、子宮口から炭酸ガスまたは生理的食塩水などを注入します。注入した炭酸ガスや生理的食塩水が子宮腔から卵管へ通して腹腔から流れ出るかを確認して調べます。
検査の時期は、月経終了後から排卵までの妊娠をしている可能性が低い時期に行われます。ただし、子宮や卵管の形、卵管閉塞(卵管が詰まっている)がどの部分で起こっているのかまではこの検査ではわかりません。そのため、卵管通水検査は、卵管の治療を目的として行うことが増えています。
子宮卵管造影検査(HSG )
子宮卵管造影検査(HSG)は、造影剤を使って子宮内腔の状態と卵管につまりがないかを調べる検査です。
検査の時期は、卵管通水検査と同様で、月経終了後から排卵までの妊娠している可能性が低い時期に行われます。この検査は、卵管を通す治療ではありませんが、原因不明の不妊症の場合、子宮卵管造影検査を行うことで妊娠率が高くなるといわれています。
この検査で「子宮内のポリープや癒着」「子宮奇形」「卵管狭窄、閉塞病変」「卵管の拡張病変」などが疑われた場合は、さらにMRIなどを使ってさらに詳しく検査をします。異常があった場合は、手術などの治療などを行ってから、タイミング法や体外受精といった不妊治療が行われます。
卵管鏡下卵管形成術(FT)
卵管鏡下卵管形成術(FT)は、卵管性不妊と呼ばれている不妊に対して行われている治療法です。卵管が閉塞している(詰まっている)部分や狭窄している(狭くなっている)部分にメスなどを使わずにバルーンと呼ばれている風船のようなもので押し広げて通過性を回復させるために行われます。しかし、この治療の手技が煩雑なため施術が受けられる施設は限られています。
精路再建手術
精路(精子の通り道)に閉塞(つまり)がある場合、つまりを取り除いて精路を再建する治療です。閉塞部位によって方法は異なりますが、閉塞部位を解除できれば自然妊娠が期待できる治療法です。
タイミング法
タイミング法とは。検査結果をもとに排卵日を予測して医師から妊娠しやすい日についての指導を受けながら、性行為を行う治療法です。保険が適用されるので1回に必要な治療費は数千円です。不妊治療の一番はじめに行われる治療法です。
保険適用外の不妊治療
女性または男性側に妊娠しにくい異常があった場合は、治療をしたうえではじめにタイミング法が行われます。何度かタイミング法を試しても妊娠に至らなかった場合は、人工授精、体外受精や顕微授精といった治療法にステップアップしていきます。
タイミング法は保険が適用されますが、人工授精、体外受精や顕微授精は保険適用外になるため、医療費が高額になります。
保険適用外の不妊治療には、以下のようなものがあります。
- 1.人工授精
- 2.体外受精
- 3.顕微授精
人工授精
人工授精とは、精子を注入器を使って人工的に子宮に送り込む治療法です。排卵日に合わせて元気な精子だけを送り込むことで妊娠の確率を高めます。体外受精よりも妊娠する可能性が低いですが、体と経済的な負担が比較的低いので、回数を重ねることが可能です。
この方法は、夫側に精液の異常(精子の数が少ないなど)や性交障害などがある場合に用いられています。
体外受精と混同されることがありますが、人工授精は精子を人工的に送り込むことが通常の妊娠とは違うというだけで、受精は自然な状態に行われます。
体外受精
体外受精とは、卵子を取り出し、シャーレの中で卵子と精子の受精を行います。受精卵が分裂して受精後2~6日経過したあとで、受精卵を子宮に戻す治療法です。戻した受精卵が子宮に着床して順調に成長すると妊娠に至るのですが、子宮に戻した受精卵は必ず着床するとは限りません。そのため、着床しなかった場合は何度か体外受精を繰り返すことがあります。
顕微授精
顕微授精も体外受精と同様、卵子を体外に取り出して精子と受精させるのですが、体外受精と顕微授精の違いは受精の方法です。
体外受精の場合は、シャーレの中で卵子と精子を受精させるのですが、この場合精子が卵子の中に自ら入って受精するのを待ち、受精卵になった卵子が順調に分裂したものを子宮に戻します。
顕微授精の場合は、ガラス針の中に精子を1つ入れて、卵子に直接精子を注入して受精させます。顕微授精の場合も受精卵が順調に分裂をしたら子宮の中に戻すのですが、この場合も子宮に戻したものが必ず着床するとは限らないので妊娠に至らないこともあります。
妊娠のしくみについて知っておこう
自然妊娠と体外受精の違いを知るために、妊娠のしくみについてご紹介します。
1回で射精された精液の中に含まれている精子の数は個人差も大きいのですが、約1~4億個といわれています。射精された精子は、卵子と出会うために子宮口から卵管をめざします。そのときのスピードは1分間に2~3mmです。子宮の中の環境は精子にとっては生存しにくい環境なので、精子にとって卵管までの道のりは過酷で長いのです。
一方、女性の方は、1か月に1回卵巣から卵子が飛び出します。排卵した卵子も精子に出会うために卵管へと移動します。過酷な環境の中で生き延びた精子が卵子と出会うと精子は卵子の中に入ろうとします。通常1つの卵子の中に入れる精子は1つだけなので(2つ以上入ると一卵性の双子とかになります)、卵子の中に精子が入ると他の精子は卵子の中に入ることができなくなります。
卵子と精子が出会い、受精卵となったあとは数日かけて卵管から子宮内に移動します。最初は子宮内で浮いていて着床のタイミングを見計らっています。やがて受精卵は子宮内膜にもぐりこんで根をはります。これが着床です。
受精卵になってから、着床するまでに1週間かかるといわれています。その後子宮の中で280日かけて成長して、ようやく赤ちゃんに会えるのです。
つまり、妊娠するということはこれだけの奇跡が連続して起きた結果ということがいえるのです。
体外受精のリスク!○○妊娠が増える?
妊娠のしくみでご説明したように、自然妊娠の場合1~4億個の中で卵管にたどりつき、卵子の中に入れる精子はたった1つです。つまり、それだけ過酷な環境を生き延びたたった1つの精子だけが卵子にたどり着くことができるのです。
体外受精の場合、排卵誘発剤を使って卵巣を刺激したり、人工的に卵子を採取する必要があるため、さまざまなリスクが伴うことがあります。
たとえば、卵胞が多数発育しすぎてしまう卵巣過剰刺激症候群になるリスクや、採卵時に卵巣周辺の臓器を傷つけてしまったり、痛みを軽減するために使用する麻酔で合併症を起こしてしまうこともあります。
体外受精の一番多いリスクは多胎妊娠です。日本産婦人科学会における2014年度の報告によると、体外受精での多胎妊娠の確率は3%で、自然妊娠に比べると高い確率になったという結果も出ています。以前は、妊娠の確率をあげるために複数の胚(受精卵)を子宮に戻すこともありましたが、多胎妊娠のリスクを下げるために現在は原則子宮に戻す胚の数は1個と決められています。
不妊治療のための金銭的・精神的負担
保険適用外の不妊治療を行うためには、高額の医療費を負担しなければなりません。また、治療が複数回にわたることも多いので、精神的にも肉体的にも負担になる人も多いです。
一度、不妊治療を始めると妊娠するまで辞められないという人も多く、治療期間が長くなればなるほど、経済、精神、肉体の負担が増加します。不妊治療の場合、100%妊娠する保証はありません。どんな治療をするか、いつまで続けるのかは夫婦で決めることになります。
また、治療方針も病院やクリニックにより異なるため、自分たちが希望している治療方針と合わなかった場合は、病院のとの相性も精神的な負担になることもあります。
不妊症の治療を行う場合は、早めに治療を開始することが望ましいのですが、夫婦の経済状態や体調なども考慮し、夫婦でしっかり話し合いながら進めるようにしてくださいね。
まとめ
不妊治療の内容についてご紹介してきました。不妊は、卵管や精管が狭くなっていたり、つまりなどがあることが原因で不妊になることもありますが、特定の原因がわからない場合も多くあります。そのため、治療が長期にわたってしまうこともあります。
不妊の治療には、保険が適用できるものと保険適用外になるものがあります。保険が適用されない治療の場合は、医療費が高額になるため、治療期間が長くなれば長くなるほど負担する金額も大きくなります。不妊治療は、高額の医療費だけではなく、精神的な苦痛や肉体的な苦痛が伴うことも多いです。これらの内容を理解したうえで治療を行うことが大切です。
また、夫婦のどちらか一方に不妊の原因があると分かった場合、原因のある方が精神的に追い込まれてしまう場合もあります。ですが、不妊治療はどちらか一方が行うものではありません。夫婦で協力して2人で一緒に乗り越えていきましょう。
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