男女別での不妊原因・検査の方法と治療方法について
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「不妊症」という言葉は、最近よく聞かれるようになり、また、意識されている方もいらっしゃるでしょう。おそらく、若い頃は「不妊症」という言葉はどこか遠くにあるような言葉だったのではないでしょうか。
しかし、結婚をしたり、そろそろ子供を作ろうかと思った時、「もしかしたら自分は不妊症なのではないか?」「不妊症だったらどうしたらいいのか」と不安になった方も、また、実際に不妊症だった方もいらっしゃるかもしれません。
実は、不妊症は年々増加していると言われています。なぜ、不妊症は増加しているのでしょうか?
不妊症とは何か、女性側だけの問題なのか、男性側の問題もあるのか。原因もみながら不妊症が増加している理由を探っていきましょう。また、どのような治療法があるのかも、ご紹介していきます。
不妊症とは?増加しているって本当?
不妊症とは?
現在、日本産科婦人科学会は不妊症を「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という。その一定期間については1年というのが一般的である。」
と定義しています。
「通常の性交を継続的に」とは、月に一度などの頻度ではなく、月に数回や、週に数回の頻度のことをいいます。実は、この定義は2015年8月に改訂されたもので、それ以前は、妊娠の成立がない期間を2年していました。
なぜ妊娠が成立しない期間を「2年」から「1年」へと変更したのかというと、日本産科婦人科学会は、WHO、ICMART、ASRM、ESHREなどの海外の諸機関が「不妊」の定義を1年にしているためその基準に合わせた、と発表しています。
不妊症は増加しているの?
では、最近よく耳にする「不妊症」ですが、実際に増加傾向にあるのでしょうか。実際、いま日本では、不妊治療の需要が大変高まっており、実はクリニックの数も世界一なのです。
厚生労働科学特別研究「生殖補助医療技術に対する国民の意識に関する研究」では、実際に不妊治療の研究結果が報告された2003年から2015年の間で、日本の体外受精や顕微授精等の生殖補助医療は、4倍以上に増加しているとしています。
不妊治療を受けるカップルは近年増え続けており、以前は10組に1組といわれていたのが、現在は6組に1組のカップルが不妊だといわれています。
国立社会保障・人口問題研究所の2015年の報告では、「不妊を心配したことがある夫婦の割合は35.0%、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は、子どものいない夫婦で28.2%となっています。
不妊症の原因は?女性だけの問題なの?
女性側の原因にはどのようなものがあるの?
不妊症の原因は、男性・女性のそれぞれいずれか、または両方にあります。原因は特定できるものばかりではなく、はっきりした原因が特定できないケースも多くあります。
不妊の原因を、男女別で見てみますと、女性だけに原因があるのは41%と言われています。ここでは、まず女性側の原因を具体的にみていきましょう。
卵巣が原因
排卵障害によるものです。
肥満傾向の方でBMIが27以上、逆に痩せすぎの方でBMIが17以下の場合は排卵障害が起こりやすいともいわれています。極端な月経不順で排卵を伴わない月経、つまり「無排卵月経」の方は、排卵が起きていないため妊娠しません。
排卵障害の原因には、甲状腺の病気や、男性ホルモンが高くなってホルモンバランスに異常をきたす多嚢胞性卵巣症候群などがあります。
卵管が原因
卵管は、精子が卵子に向かい、また、受精した受精卵が再び子宮に戻るための道のことを言います。クラミジアや淋菌感染症などは、卵管に炎症を起こし、骨盤腹膜炎の原因となりますので、感染したことのある方は卵管が詰まっていることもあります。また、子宮内膜症による卵管周囲癒着なども原因とかんがえられます。
子宮が原因
女性不妊症の2~7%の原因となり、子宮筋腫による粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープなどが原因と考えられています。
頸管が原因
子宮頸管は、子宮の出口にある円柱状の部分です。通常排卵が近づくと精子が通りやすくなるための粘液が分泌されますが、分泌が少ないと精子が通れず子宮内までたどり着けないため、妊娠が起きません。
また、子宮頸部異形成などによる円錐切除後は、子宮頸管が狭窄したり、頸管粘液が減少してしまう傾向があります。
免疫が原因
免疫は、細菌やウイルスなど異物の侵入から体を守るために必要なものですが、人によっては免疫の力で精子を攻撃してしまうことがあります。
その場合、精子の運動性が失われるため卵子に到達できず、受精できません。原因不明の不妊症に多くみられます。
原因不明
原因不明の不妊は全不妊症の10~25%を占めるとされていますが、主に加齢による卵子の老化などが原因といわれています。
男性側の不妊の原因とは?
「不妊」と聞くと、日本では昔から主に女性に問題があると考えられており、子供ができないことが原因で女性は苦しい立場に立たされ、時には、離婚に発展してしまうこともあったようです。
しかし、不妊とは、本当に女性だけの問題なのでしょうか?
実は、女性には問題がなく男性にだけ原因があるのは24%、男女共に原因があるとされるのは24%と、つまり男性に何かしらの原因があるとされるのは48%にもなります。
この場合を男性不妊といいます。
男性不妊の原因ですが、先天性の場合では、遺伝的なもの、発育段階で受けた影響等による性的欲求や性的興奮の減退や欠如などの性機能不全が原因と言われています。
そして、後天性の場合は、ストレス、アルコール、喫煙、肥満、糖尿病、病気や薬の影響、精巣の機能障害、無精子症、射精ができない、勃起不全などが原因といわれています。
では、男性不妊の原因をより詳しくみていきましょう。
造精機能障害
男性不妊の90%はこの障害が原因と言われています。
精子の数が少ない(乏精子症)、または精子が無い(無精子症)、精子の運動性が悪い(精子無力症)、といったことが挙げられます。これらに特定の原因がない場合も多いのですが、精子をつくる機能に何かしらの問題があり、精子をうまく作れない状態です。特に、精索静脈瘤ですと陰嚢内の温度が上がるため、精子の数や運動性に悪影響を与えます。
精路通過障害
精子がペニスの先端まで行くための通路が途中で詰まっていて、精子が排出できない状態で、副睾丸、精管、前立腺、精嚢のどこかに異常がある可能性があります。また、精巣上体炎などの炎症により精管が詰まっている場合などがあります。
性機能障害
性交時に十分な勃起ができない、または、十分な勃起が維持できない「勃起障害(ED)」、膣内で射精することができない「膣内射精障害」、などがあげられます。ストレスや糖尿病が原因のこともあります。また、交通事故や手術の後遺症による障害で、このような状態になってしまったケースもあります。
その他
生まれつき精管が備わってない「先天性精管欠損」、精液が造られない「無精液症」、精液が尿道に送られず、膀胱に逆流する「逆行性射精」などです。
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不妊症はどうして増加しているの?
晩婚化によって妊娠希望の年齢が上昇している
ここまで、女性男性共に不妊症の原因となるものをみてきましたが、では、不妊症が増えた、つまり実際に不妊検査・治療をする方々が増加している要因とは何でしょうか。
まず、不妊治療を行う患者さんが増えた背景には、晩婚化によって妊娠希望年齢が上昇
していることがあげられます。
厚生労働白書によると、2012年の段階で女性の平均初産年齢は、30歳を超えていることがわかっています。そして、晩婚化により、赤ちゃんを持つ年齢は自然と上昇します。
平成27年の段階では、結婚の平均年齢は、男性が31.1歳、女性が29.4歳であり、男女とも毎年0.1~0.3歳ずつ結婚する年齢が上昇しています。
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「不妊症」に対する抵抗がなくなった
以前の日本では、生理がある間ならいつでも妊娠可能という考えが普通でした。
しかし近年、高齢にともなう卵子の老化によって妊娠が難しくなるという情報がマスコミなどメディアを通して、一般の方々にも浸透してきました。また、インターネット等で、女性の体にかんすることや妊娠に関する情報などが誰でも簡単に入手できるようになりました。
そのため、30代後半から40代の方はもちろんのこと、若い年齢の方々の間でも「不妊症」という言葉が広く知れ渡り、早めに不妊検査・治療を受けるようになったということも、増加につながっているのではないでしょうか。
また、芸能人など著名人の方々が、不妊治療をしていること、また不妊治療により妊娠をしたことなどを公表することも多くなったため、以前よりも不妊治療に対しての抵抗が少なくなり、病院に通いやすくなったということがあります。
生殖補助医療に対する国からの助成金
不妊検査や治療を行う方が増えた理由の一つに、生殖補助医療(高度生殖医療)に対して、国や自治体から助成金が支給されるようになったということもあるのではないでしょうか。
今までは不妊治療、特に生殖補助医療を行いたくても高額なため、経済的な問題から受けられなかった方たちも多くいらっしゃり、限られた方達しかうけられないもの、という認識があったと思いますが、助成金を受け取ることで、不妊治療を希望する多くの方が治療を受けられるようになりました。
また、自治体によっては、生殖補助医療以外の不妊治療に対しても、助成金を支給しているところもありますよ。
不妊症の検査にはどのようなものがあるの?
女性側の検査
不妊治療を始める前に、まずは検査をうけなくてはなりません。では、実際に不妊症の検査にはどのようなものがあるのでしょうか。女性の検査、男性の検査と分けてみていきましょう。
まず、女性側の検査をみていきましょう。
内診・経腟超音波検査
医師の触診、また、超音波プローブを使用して子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜症など病気がないかを調べます。子宮内膜症や子宮筋腫の疑いがある場合には、MRI検査を追加して行う場合もあります。
子宮卵管造影検査
卵管が詰まっていないか、子宮の形に異常がないかを、子宮口から造影剤を注入しレントゲンで確認します。
血液検査(ホルモン検査)
血液を採取し、女性ホルモンの分泌や、甲状腺機能、糖尿病など全身疾患に関係する検査を行います。他にも、卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンの検査も行います。妊娠が成立する時期(黄体期)に、十分な女性ホルモンが分泌されているかどうかを調べる必要があるため、月経周期にあわせて2回の検査を行います。
性交後試験
子宮頸管粘液の中に運動精子があるかどうかを調べるための検査で、排卵直前に性行為をし、翌日に子宮頸管粘液を採取します。運動精子が認められない場合は、免疫因子の有無を調べます
男性側の検査
次に、男性側の検査ですが、精液検査と泌尿器科的な検査に分けられます。精液検査は、ほとんどの方が受ける一般的な検査で、泌尿器科的な検査は、精液検査で疾患が疑われる場合に行われる検査です。
先ほど説明しましたが、不妊症カップルの48%は男性側に原因があるといわれているので、悩まれている方は、泌尿器科で男性の検査を受けることがおススメです。
では、男性側の不妊症の検査にはどのようなものがあるのか、具体的にみていきましょう。
精液検査
2-7日の禁欲期間の後に、マスターベーションで精子全量を採取し、精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを調べます。
ホルモン検査
精液異常や精子を作る機能が正常かどうか調べるため、また、勃起障害、射精障害がある場合、採血をして血液中の男性ホルモンや、卵胞刺激ホルモン、プロラクチン、黄体刺激ホルモンなどを調べます。また、精液を介する感染症の有無、肝臓や腎臓の機能なども検査します
精巣の検査
触診により、精巣、精巣上体に異常がないか検査し、また、精巣内部の異常や精索静脈瘤の有無も調べます。
染色体・遺伝子検査
精子数が極端に少ない(精子濃度が500万/ml 以下)、または、無精子症の場合に、検査を行い、染色体の軽微な変化や遺伝子異常を調べます。
不妊症の治療とはどのような治療法があるの?
不妊の治療方法はいくつもあり、不妊の原因によって治療内容も変わってきます。
ここでは代表的な治療方法を紹介いたします。
タイミング法
これは、最初に一般的に最初に用いられる治療方法で、ここから順番にステップアップしていくことが多いです。
妊娠するためには、排卵日の2日前ころから性行為をすることが大切で、妊娠率が上がると言われていますので、粘液の状態や卵胞の大きさなどから排卵日を正確に診断し、一番妊娠する確率の高い日に性行為をする事で自然妊娠を目指す方法となります。
排卵予定日の数日前に経腟超音波検査により、卵子が入っている袋の大きさを測定し、排卵日を推定します。
また、排卵の状態がよくない場合には、卵胞の発育と排卵をうながすために、内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵をおこさせる場合もあります。
人工授精
タイミング法が自然妊娠を目指すものであるのに対し、人工授精は、名前の通り人の手で精液を女性の子宮内に注入する方法となります。タイミング法を半年以上続けても結果が出ない場合、精子の数が少ない、または動きが悪い場合、また、フーナーテストが良くない場合などに行われます。
人工授精は、事前に採取した精液から運動している成熟精子だけを選び、洗浄して、タイミング法で説明した妊娠しやすい時期(排卵日数日前)に子宮内に注入する方法です。
体外受精と顕微授精
体外受精は、一定の期間、タイミング法や人工授精を行ったけれど妊娠しない場合、卵管が完全に詰まっている場合、卵管が癒着し剥離不可能な場合、抗精子抗体が陽性の場合に行われます。
体外受精とは、卵胞に針を刺して採取した卵子に、事前に採取した精子を受精させ、その受精卵を培養液につけて3~5日発育させます。そのあと、受精卵を子宮内へ戻します。
最近では一般的な治療方法の一つになってきています。
顕微授精とは体外受精の一つですが、体外受精ではあくまでも精子の力に頼って受精をさせるのに対し、顕微授精は、顕微鏡で観察しながら運動している精子を一つ選び、ガラスの針を使って卵子に刺して精子を注入します。
顕微授精は、体外受精でも授精しない場合、精子の運動性不良の割合や奇形精子の割合が高い場合、抗精子抗体が陽性の場合などに行われます。
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どんな人が不妊症になりやすいの?
では、どのような人が不妊症になりやすいのでしょうか。
先ほど、不妊症の原因についてご紹介しましたが、病気などが原因となっている場合を除くと、原因不明のものも多くあります。
しかし、原因不明といっても、不妊症にならないための対策をとれば、改善する場合もあります。そこで、原因不明の不妊症を改善するために、また、不妊症にならないために、「どのような人が不妊症になりやすいのか」という部分についてみていきましょう。
冷え性の人
まずは、不妊症になりやすい人の特徴として、「冷え」があります。実は、冷え性が不妊症を招く恐れがあるのは、体が冷えていると血液の流れが悪くなってしまうからです。
血流の流れが悪くなると、妊娠するために大切な子宮や卵巣に必要な栄養が行き届かないため、子宮や卵巣の機能が低下してしまうのです。また、子宮や卵巣そのものも冷えてしまいます。
そのため、「体の冷えを改善したら妊娠できた」という人は多くいらっしゃいますよ。
では、冷え性を改善するために、何に気を付けたら良いのでしょうか。まず一番簡単にできることは、「食事を改善する」「入浴方法を変える」「服装を変える」などがあげられます。
規則正しく、栄養バランスを整えた食事を心がける、ことが大切です。特に、砂糖や、人工甘味料、食品添加物、石油由来の残留農薬、には気を付けましょう。
というのは、これらは体を冷やす代表的なものです。加工食品、菓子パン、コンビニ弁当やファストフードなどを減らすようにしましょう。
入浴に関しては、シャワーだけで済まさず、湯船につかる、そして、服装に関しては、ン短いスカートや、お腹が出てしまうようなTシャツなどを着ないようにする、靴下をはくなど気を付けましょう。
油断してはいけないのが、夏場のクーラーです。羽織ものやストールなどで「冷え」から体を守りましょう。
適正体重の維持
バランスのとれた食生活の大切さをご紹介しましたが、このような食事は適正体重の維持にも役立ちます。というのは、食事からの栄養のおかげで、卵巣の機能は正しく機能するからです。
特に、無理なダイエットなどをすると月経が止まってしまったり、排卵が起きない無月経となってしまったり、さらには、排卵障害へと悪化してしまうケースもあります。痩せすぎの人は、女性ホルモンの分泌が少なくなってしまいます。
また、太り過ぎや痩せ過ぎも不妊の人に多い特徴の1つと言えます。逆に、太り過ぎてしまうと、女性ホルモンが分泌されても皮下脂肪に吸収されてしまうので、必要な部分にまで届かなくなります。
つまり、太りすぎも痩せすぎも、どちらも不妊の元となってしまいますので、 妊娠するために必要な女性ホルモンがしっかり分泌され、働いてくれるように、適正体重を維持するようにしましょう。
喫煙と飲酒
喫煙や副流煙による不妊への悪影響については、排卵への悪影響、遺伝的な問題、生殖器官や卵子の損傷、などだんだん明らかになってきています。喫煙は妊娠したら禁煙すれば良い、のではなく、不妊治療中にも良くないのです。
また、女性だけでなく男性にも、喫煙男性は非喫煙男性よりも、精子の数が少ない、勃起不全になる、など悪影響を与えることが分かってきました。
また、飲酒に関しては、多量の飲酒はやめましょう。
女性が多量に飲酒をすると、月経不順や排卵障害が起こる可能性があります。
また、男性も多量の飲酒は、精子の数や精子の運動率の低下を招きます。
1滴も飲んではいけないということではなく、あくまでも飲みすぎに注意し、適度な量を楽しむことを心掛けましょう。
まとめ
以上、不妊症について、原因や治療法などについてご紹介してきました。
以前に比べ、マスコミでも不妊症について取り上げたり、また著名人が不妊症や不妊治療をしていることを公表するようになったことで、不妊症に対する世間のイメージや意識も変化してきています。
実際に、数字の上では不妊症の方は増加しているように感じますが、今まで公にならなかっただけで昔から不妊症で悩む方の人数はそれほど大きな変化はないのかもしれませんね。
しかし、不妊症に対する意識が変わったことで、悩まれる方一人一人が気持ちの上でも前向きになれたり、助成金が支給されるなど実際に治療も受けやすくなっていますので、一人でも多くの方が治療を受け、妊娠、出産へとつながっていくことは素晴らしいことでなないでしょうか。
また、自分の生活を整える、ということは全ての基盤となりますので、不規則な生活をしている方、食生活が乱れているかた、喫煙している方などは、いまいちどご自分の生活を見直すのも大切ですね。