妊娠中の妊婦の貧血になりやすい。妊娠貧血はなぜ起こるのか?その対策法は?
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妊婦健診に行くと、「ちょっと貧血気味ですね」や、「出産前にこの状態だとまずいので貧血の治療に通ってください」といった指示が出ることがよくあります。
妊娠中に妊婦はなぜ貧血になりやすいのか、また出産前に「妊娠貧血」になっているとなぜいけないのかなど「妊娠貧血」についてご紹介します。
そもそも貧血とは?
妊娠中の妊婦さんは貧血になりやすいといわれています。「貧血」とは、どんな状態になることをいうのでしょうか。貧血とは、血液中の赤血球に含まれているたんぱく質のヘモグロビンが減少している状態のことをいいます。
ヘモグロビンは、酸素分子と結合するという性質があり、肺から全身に酸素を運ぶ役割と全身の細胞で生じた二酸化炭素を肺に戻すという役割があります。
ヘモグロビンは、ヘムと呼ばれる鉄を含む赤い色素とグロビンというたんぱく質で構成されています。
妊娠中に妊婦はなぜ貧血になりやすいの?
今まで貧血なんて言われたことがなかった女性でも、妊娠をしたあとに「貧血気味ですね」と言われたとか「貧血がひどいと言われて鉄剤を処方された」という経験がある妊婦さんは多いです。特に、出産間際に「妊娠貧血」の状態になっている場合は、「薬では治療が間に合わないので点滴や注射に通ってください」という指示を受けることもあります。
では、妊娠中はなぜ貧血になりやすいのでしょうか?
妊娠中は、妊娠の継続日数が増えていくのと同時に母親の血液量が増えていきます。血液成分の赤血球やヘモグロビンも増加しますが、それ以上に血漿(けっしょう)が増加してしまうので血液が薄まってしまっている状態になるので、貧血状態になってしまうのです。
血液の量や血漿量が増加は生理学的な現象の1つで、胎児に血液や栄養を送るために起こっています。つまり、胎児がお母さんのおなかの中で育つために起こる必要な現象なのですが、母親にとっては貧血の原因になってしまうことがあるのです。
先にも触れたように「妊娠中に貧血になる女性」は大勢います。妊娠中の女性は、出産時の大量出血に備えて母体で大量の血を作ります。このとき、血液の液体成分である血漿(けっしょう)は最大で約50%増加するのに対し、血液に含まれる赤血球は約20%程度しか増えないとされています。
赤い色素の成分である赤血球やヘムの量のよりも血漿と呼ばれている黄色味がある液体の増える量が多いので薄められてしまうということです。
また、妊娠中はつわりなどが原因で食事の内容が偏ってしまったり、食事をたくさん食べられなくなったりしてしまうことがあります。そのため、肉や魚などのたんぱく質を十分に摂取することができなくなり、血液に必要な鉄分が不足してしまうことがあるため貧血になりやすくなってしまうのです。
ヘモグロビンの基準値
ヘモグロビンの正常値は以下のとおりです。
属性 | 基準範囲 |
成人男性 | 14~18 g/dL未満 |
成人女性 | 12~16 g/dL未満 |
妊娠中の女性 | 11 g/dL未満 |
高齢者 | 11 g/dL未満 |
※検査会社や医療機関によって異なる場合があります。
妊娠中に血液量や血漿が増加することで妊婦の体に起こることとは?
血漿が増えることで母体側は、血栓症を防止することができます。また、胎児側では血液量が増えると酸素を運搬するヘモグロビンの量が増加するので、発育に欠かすことができない酸素の運搬量が増やすことができます。しかし、血漿の量が増え、血液が薄くなってしまっている場合、なんらかの事情により出産時に大量出血してしまうなどの事態が起きると、血液が止まりにくくなってしまうこともあります。
他にも慢性的に貧血の状態が続いてしまいますと、胎児の発育不全につながってしまったり、お産後の体の回復が遅くなってしまったりすることもあります。
「妊娠貧血」になったときに起こる症状
妊娠貧血になってしまった場合、妊婦さんにはどのような体調の変化があるのでしょうか。一般的には妊婦健診の血液検査の結果で医師から貧血になっているといわれない限り、貧血になっていることに気が付かなかったという妊婦さんは多いです。ですが、人によっては以下のような体調の変化を感じることもあります。
- 動いたときに、動悸や息切れ、だるさを感じる
- 立ち上がったときに立ちくらみをしてしまう
- 顔色が悪くなる
- 頭痛、倦怠感がある
他にも、貧血になると身体の中で最も酸素を必要とする脳も酸素不足になり、脳の機能低下を招いてしまいます。鉄が不足すると神経伝達物質であるドーパミン、セロトニンなどを規則的に作れなくなり、イライラ・落ち込み・やる気の低下・集中力の欠如など精神神経症状を引き起こす原因の1つとなります。
貧血は、身体的症状以外にも、上記のような精神的症状が現れることもあります。
妊娠貧血になったときの対処法
妊娠貧血と診断された場合、貧血が経度の場合は食事から鉄分を摂るように指導されます。この場合は、特に治療の必要はありません。
しかし、治療が必要と判断された場合は、鉄剤を処方されたり、点滴などで鉄分を補うケースがあります。妊娠貧血の場合、鉄分の欠乏が原因の鉄欠乏性貧血になることが多いので、鉄分を補う治療が行われます。妊娠貧血は、赤ちゃんが大きくなる妊娠24週~32週頃になりやすいといわれています。妊娠貧血と診断された場合は、医師の指示に従い、出産までに改善を図るようにしましょう。
食事による改善を指導された場合
貧血気味であっても、特に治療の必要がない場合でも、妊娠中は貧血になりやすい状態が続きます。食事による改善を指導された場合は特に意識をして、鉄分が含まれている食材を積極的に摂るよう心がけましょう。
鉄分が多く含んでいる食材には以下のようなものがあります。
食物に含まれている鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。体の吸収が良いといわれているものは「ヘム鉄」と呼ばれている鉄分で、肉や赤身の魚などの動物性の食品に多く含まれています。「非ヘム鉄」と呼ばれているものは、野菜や卵などに多く含まれています。「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」は体に吸収される割合が大きく違います。ヘム鉄は、体に吸収される割合は30%程度といわれていますが、非ヘム鉄の場合は7%程度です。
体への吸収率を考えると、ヘム鉄を含む食材を積極的に摂ることがおすすめなのですが、妊娠中はバランスの良い食事を摂ることも大切です。また、高カロリーの食品ばかり摂取してしまいますと、体重増加につながってしまうこともあります。鉄分が含まれている食材を摂る場合は、動物性の食品だけではなく、野菜などの植物性の食品からの摂取も心がけるようにすると良いでしょう。
良質なたんぱく質を多く摂る
良質なたんぱく質は、血液成分の赤血球やヘモグロビンを作る材料になります。たんぱく質は体内に貯蔵しておくことができません。食事から摂る必要がありますので、鉄分を含む食材と一緒にたんぱく質も摂るようにしましょう。
鉄分の吸収を阻害する食品に注意する
コーヒーや緑茶に含まれるタンニンは鉄分の吸収を妨げてしまいます。妊娠中のコーヒーの摂取はできるだけ避けることがおすすめです。緑茶などを飲む場合も、食事と一緒に飲むことは避け、鉄分を含んだ食事を摂ったあと30分ほど経ってから飲むようにしてみてください。
鉄剤などを処方された場合
医師に処方された薬を飲み、食事などにも注意しながら貧血を改善するようにしましょう。また点滴や注射に通うように指示があった場合も、医師の指示に従い、治療を受けるようにしてください。
つわりなどで鉄剤の服用ができない場合
鉄剤は鉄のニオイを感じる人も多いので、つわりのときにどうしても飲むことができなかったり、鉄剤を服用すると吐き気が強くなったりしてしまう人もいます。
しかし、食事療法ではなく、薬を処方されたということは貧血が重い状態になっているということです。貧血状態長く続いてしまいますと、胎児の発育に影響が出ることもありますし、出産時に母体が危険な状態になってしまう可能性もあります。
処方された鉄剤の服用がつらい場合は、自己判断で薬の服用を止めるのではなく、医師に相談するようにしましょう。
鉄剤を服用すると便秘や下痢になることも
鉄剤を服用していると便秘や下痢になってしまうことがあります。あまりひどい便秘や下痢になってしまったときは、ひとりで悩まずに医師に相談するようにしましょう。
貧血の状態になっているときは無理をしないように注意する
貧血の状態になっていると、体が疲れやすくなっていたり、立ちくらみやめまいといった症状が出ることがあります。転倒の危険などもありますので、貧血を軽視せずに無理をしないことが大切です。貧血の状態になると、血液が薄い状態になっているため、より多くの血液を全身に送ろうとして心臓に負担がかかることもあります。
心臓に負担がかかっている状態に、無理をして動いてしまうとさらに心臓に負担をかけてしまうことになり、動悸や息切れといった症状が出ることがあります。疲れやすくなっていたり、立ちくらみなどの症状がある場合は、無理をせずに体を休めるようにしてください。
まとめ
妊娠中の貧血は、胎児の発育の影響が出る可能性があるだけではなく、出産時に母体が危険な状態になってしまうことや、産後の回復が遅れてしまうこともあります。
また、貧血の影響でめまいや立ちくらみなどがある場合は、転倒してしまう危険もあります。妊娠中は胎児に必要な血液や栄養を運ぶために貧血になりやすい状態になっています。鉄分やたんぱく質などをしっかり摂り、バランスの良い食事を心がけましょう。
また、体調が良くない場合は無理をせず体を休めるようにしましょう。貧血を軽く考えることは危険です。鉄剤などが合わないときは自己判断で服用を止めることは避け、必ず医師に相談するようにしてください。