出産に年齢は影響する?高齢出産になるほどリスクが高くなるって本当?
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女性の一生の中で、結婚や出産は大きなターニングポイントとなるくらいビッグイベントである場合が多いです。特に、出産を希望される方では、年齢を意識して「早く結婚して出産しなきゃ」と焦る方もいらっしゃるかもしれません。
最近、芸能人でも高齢出産をされる方も多く、世間一般的に、高齢出産が多くなっている、もはや高齢出産は当たり前との見方もあります。
果たして、本当に出産の年齢は上昇しているのでしょうか?
また、出産と年齢はどのような関わりがあるのでしょうか?
年齢が出産に与える影響には、どのようなものがあるのでしょうか?
「出産と年齢」について、いくつかの視点からみていきましょう。
出産年齢の平均はどのくらい?
日本の出産年齢の平均
まず、日本における初産の出産年齢の平均は、2016年の人口動態調査によると、平均年齢は30.7歳となっています。2011年から、初産の平均年齢は30代に突入しました。
もう少し時代を遡ってみてみましょう。
1950年における初産の平均年齢は24.4歳でした。そして、それ以降1960年~80年代にかけて上がり続けてはいましたが、1歳上がるのに10~20年かかっていました。ということで、このころの出産年齢の平均は、緩やかに上昇しています。
その後、2000年代に入ると急激に上昇し始め、5年で1歳上がってしまう時期が続きますが、2014年以降は、また緩やかな上がり方になっています。
ちなみに、2016年の調査では、第2子の出産平均年齢は32.6歳で、第3子では33.6歳となっています。父親の第1子誕生時の平均年齢は32.8歳でした。第2子では34.5歳、第三3子では35.5歳となっています。
地域によって違いはあるの?
ここまで出産年齢の平均をみてきましたが、この平均に地域による差はあるのでしょうか。上記の通り出産年齢の全国平均は30.7歳ですが、地域ごとに見てみると若干の違いがあります。
都道府県別平均出産年齢(厚生労働省「人口動態調査」に基づく) | |||
北海道 | 30.3 | 滋賀 | 30.5 |
青森 | 29.8 | 京都 | 31.0 |
岩手 | 29.8 | 大阪 | 30.7 |
宮城 | 30.4 | 兵庫 | 30.7 |
秋田 | 30.4 | 奈良 | 30.8 |
山形 | 30.1 | 和歌山 | 29.7 |
福島 | 29.5 | 鳥取 | 29.9 |
茨城 | 30.2 | 島根 | 30.0 |
栃木 | 30.3 | 岡山 | 30.0 |
群馬 | 30.3 | 広島 | 30.1 |
埼玉 | 30.8 | 山口 | 29.6 |
千葉 | 30.9 | 徳島 | 30.0 |
東京 | 32.3 | 香川 | 30.2 |
神奈川 | 31.4 | 愛媛 | 29.7 |
新潟 | 30.5 | 高知 | 30.4 |
富山 | 30.4 | 福岡 | 30.2 |
石川 | 30.3 | 佐賀 | 29.6 |
福井 | 30.2 | 長崎 | 29.7 |
山梨 | 30.5 | 熊本 | 29.8 |
長野 | 30.6 | 大分 | 29.9 |
岐阜 | 30.1 | 宮崎 | 29.4 |
静岡 | 30.4 | 鹿児島 | 29.9 |
愛知 | 30.5 | 沖縄 | 29.8 |
三重 | 30.1 | 全国 | 30.7 |
例えば、平均年齢が最も高いのは東京都で32.3歳、2位は神奈川県で31.4歳です。そのあとは、京都府の31.0歳、千葉県の30.9歳、埼玉県の30.8歳の順で続きます。比較的都市部において、平均年齢の高さがみてとれます。
一方、最も平均年齢が低かったのは宮崎県で29.4歳、続いて福島県の29.5歳、山口県の29.6歳、佐賀県の29.6歳となります。確かに、地域によって若干の年齢差はあるようです。
出産に年齢的な限界はあるの?
自然妊娠の場合
出産の平均年齢を見てきて、実際に出産年齢が上がっていることはわかりました。
しかし、このまま上がり続けても大丈夫なのでしょうか。出産に年齢的な限界はあるのでしょうか。
実は、人には「妊娠適齢期」がある、と言われています。この言葉を聞くと、女性差別だ、女性は出産するための道具ではない、などと言った言葉が聞こえてきそうです。
しかし、女性のライフスタイルが変わっても、職場における女性の地位が上がっても、妊娠に適した時期や分娩に適した時期というのは、人体の構造上大昔からまったく変わらないのです。
多くの方が「生理があるから妊娠できる」と思われるようですが、これは大きな誤解です。
一般的に、だいたい閉経の10年前くらいから妊娠ができなくなります。というのは、排卵がなくなった後も、卵子の周囲の細胞は10年ほどホルモンをつくり続けるので生理はおこるのですが、妊娠に必要な卵子はなくなっているので、排卵が起きないのです。
個人差はありますが、だいたい51~52歳が閉経の年齢と言われているので、そこから10年前というと、41~42歳くらいが妊娠の限界のとなります。
平均寿命が伸びても、見た目年齢が若くても、閉経の年齢は延びませんし、卵巣の寿命も大昔から変わらないのです。医学が進歩している現代でも、「生殖年齢」を延ばすことは、超えられない壁なのです。
年齢ごとの自然妊娠の確率
では、年齢ごとの自然に妊娠する確率をみていきましょう。
まずは、30代の女性が自然妊娠する確率を30代前半と後半にわけて見ていきます。
一年間避妊をせずに性交渉をした場合、30~35歳での自然妊娠の確率は25~30%といわれており、実は25~30歳までと同じ確率なのです。つまり妊娠できる力は20代後半~30代半ばまで大きな差はないいうことになります。
しかし、35~40歳では、自然妊娠の確率は18%まで減少します。もちろん個人差はありますが、一般的に、37歳を過ぎると卵子が急速に減少してしまうのです。
なんとなく「避妊をしなければ自然に赤ちゃんはできるはず」と思っている方が多いと思いますが、年齢とともに自然妊娠の確率は低下していき、同じ30代でも30歳と39歳では妊娠の確率に大きな差ができてしまいます。
では、40代ではどうでしょうか。
同じく一年間避妊をせず性交渉をした場合の確率ですが、40代前半での自然妊娠確率はわずか5%、40代後半になると1%まで低下してしまいます。40代でも、生理周期も安定していて、しっかり排卵もしている方もいらっしゃるでしょう。
なぜ年齢のせいでここまで妊娠確率が下がるのかというと、ずばり卵子が老化してしまうからなのです。
不妊治療をしている場合
ここまで、年齢ごとの自然妊娠の確率をみてきました。ただしこれは、先に述べたように自然妊娠の確率の話です。では不妊治療をしている場合、年齢の限界はあるのでしょうか。
2020年の日本産科婦人科学会の発表によると、2018年度における体外受精実施数は45万4893件で、そのうち出生数は5万6979人で年齢別では40歳の治療件数が最も多かったと公表しています。
しかし、年齢ごとにみていくと、やはり年齢による差がでてきてしますのです。では、年齢ごとの出産率をご紹介します。
35歳・・・出産率18.4% 流産率20.1%
40歳・・・出産率9.1% 流産率34.6%
42歳・・・出産率4.5% 流産率45.9%
となります。
出産率に関しては、やはり30歳が一番高く、約5回に1回の割合で出産に至っています。しかし、40歳では出産率は10%をきってしまい、逆に流産率の方が多くなっています。この数値からもわかる通り、体外受精においても年齢が若いほど出産率が高いというのが現実です。
高齢出産についての疑問
高齢出産はどのくらい増加しているの?
実際に高齢出産はどのくらい増加しているのでしょうか。まず、日本産科婦人科学会によると、高齢出産とは35歳以上の初産婦、40歳以上の経産婦と定義されています。WHOをはじめとする諸外国でも同様の定義がなされています。
では、実際にどのくらい増加しているのか、時代を遡ってみていきます。
厚生労働省による、戦前の出産統計をみてみましょう。
グラフとしてイメージしやすいのはこちら↓
・1920年代~1940年代前半
30歳以上の出産は年間80万人以上、35歳以上の出産は年間40万人以上、40歳以上の出産も年間10万人以上です。
・1946年~1949年
30歳以上の出産は100万人以上、35歳以上の出産は年間50万人以上、40歳以上の出産も年間10万人以上、出産総数に対する
この数字を見て、ちょっと驚きませんか?
実は戦前において、現在ほどではなくても高齢出産はごく当たり前にあり、例えば1925年においては、35歳以上の女性の出産数は42万8299人と、2017年の27万0551人の約1.6倍になります。
1980年代以降、高齢出産が増加傾向にあるため、現在の私達からすると、高齢出産が増えたのはごく最近の話、と認識していたのではないでしょうか。ところが、昔は今よりもはるかに高齢出産が多かったのですね。
さらに昔、大正14年には、45歳以上の女性から生まれた子供は2万人近く、現在の21倍になります。
もちろん、初産に限定してしまえば、高齢出産は現代の方が圧倒的に多いかもしれません。しかし、高齢出産数自体が今より21倍多かった時代もあるのだというのは、驚きですね。しかも、今ほど医学も医療も進歩していない時代にも関わらず、です。
戦後、高度経済成長期に入ると出産年齢は若返り、次に晩婚・高齢出産の時代に移行するのですが、この流れは先進国に共通した現象といえます。
高齢出産に対するイメージは?
さて、実は昔から高齢出産は多かった、ということがわかりました。では、どうして最近、「高齢出産」という言葉が多く取り上げられるのでしょうか。
現代は、晩婚化や不妊治療の進歩、医療の進歩により、妊婦の4人に1人が35歳以上で出産する時代です。「高齢出産」はもはや珍しいことではなくなりました。また、40歳以上の芸能人や著名人の出産も多く、また、周囲にも高齢出産の経験者も多いため、高齢出産はとても身近なものとなっています。
しかし、この様な世の中の流れに伴い、つい「40歳を超えても無事に子どもを授かり、出産できるものだ」と安易に思ってしまう方も多いのではないでしょうか。確かに、昔も今も高齢出産の方は多く、今は医療も発達しています。しかし、高齢出産自体はリスクが高い、ということに変わりはないのです。
高齢出産のリスクはどんなものがある?
では、高齢出産のリスクについて、代表的なものをみて行きましょう。
妊娠中にトラブルが起きやすい
年齢と共に、生活習慣病によるリスクが上がります。妊娠中は血液が約1.5倍に増え、その血液を全身に送るため妊娠高血圧症候群を発症する場合もありますし、妊娠によってインスリンが効きづらくなったことで妊娠糖尿病になる確率も上がります。特に妊娠高血圧症候群は、常位胎盤早期剥離などの原因にもなり、母子の命にもかかわります。
胎児に染色体異常などが起きやすい
染色体異常は、精子と卵子が受精する段階で生じるといわれており、ダウン症も染色体異常が原因の一つと言われています。染色体異常は母親と父親の、卵子や精子の老化が原因のひとつです。
卵子の老化だけがダウン症や発達障害の原因はではありませんが、出産年齢が上がるにつれてダウン症の発症率が高くなるのは事実です。
分娩時のトラブル
日本の周産期医療は世界トップレベルですが、母親の年齢が上がるにつれて周産期死亡率(妊娠満22週以後の胎児と生後1週未満の早期新生児の死亡率)も高くなります。ちなみに、この確率は25~29歳では一番低いです。
以上が、高齢出産による代表的なリスクとなります。しかし、これらのリスクを視野に入れながらも、出産年齢が上がっているのは事実です。
出産年齢が上がっている3つの理由とは?
晩婚化の増加
出産年齢が上がっている理由について考察してみましょう。
まず、理由はその時代ごとに変わってくると思います。
まず一つ目の理由として、「晩婚化」についてみてきましょう。
日本や欧米を始めとした先進国では、晩婚化の傾向にあります。
昭和50年から平成12年の25年間の変化をみてみると、日本における女性の初婚年齢は昭和50年以降上昇傾向にあります。昭和52年の初婚年齢の平均は25.0歳、平成4年では26.0歳と、15年かけて1歳上昇しています。
しかし、そのあと更に1歳上昇して27歳になるのには、平成4年から平成12年までの8年間しかかっていません。つまり、晩婚化のスピードが速くなっているのです。
平成27年になると、結婚の平均年齢は、男性が31.1歳、女性が29.4歳に達しました。平成12年と比べると2歳以上も上昇しています。
男女とも毎年0.1~0.3歳ずつ結婚する年齢が上昇しており、今後日本ではさらに晩婚化が進むといわれています。2020年には結婚の平均年齢は男性が31.6歳、女性が30.0歳に達する見込みであるとの見解もあるようです。
参考資料:acure-hari.com
女性の社会進出
現在、「将来の夢はお嫁さん」「高校卒業したら花嫁修行」「仕事はするけど早くに寿退社したい」というような事を考える高校生はどのくらいいるでしょうか。
数十年前は一般的だったかもしれませんが、今はほとんどいませんよね。現在は女性の大学進学率は50%であり、男女ともに社会で働くということが当たり前、さらに、結婚後の共働きも当たり前、という価値観に変わってきています。
一般的には大学や短大、専門学校を卒業し、20~24歳で就職をします。すると男女問わず、だいたい25~35歳の間はキャリアアップを目指す時期となり、自然と結婚や出産を控える女性が増えていきます。
現在は女性が仕事でキャリアを積むことが普通になっており、その場合、妊娠にちょうど良い時期に働いてしまうのです。
また、このような女性は仕事に対する責任感も強く、産休、育休と長期で休む事でキャリアを中断されることに罪悪感を持ってしまう場合もあります。
日本社会における出産と育児に対するサポートの不十分さ、また、まだまだ産休育休を取りづらい会社が多いことなど、安心して出産に踏み切れる人は多くありません。
社会全体の意識
社会進出している女性達が、安心して妊娠、出産できる社会とは、どのようなものでしょうか。まずは、日本全体の「意識」を変えていかないといけませんよね。社会進出をしている女性達が安心して出産、育児ができる社会になっていけば、出産を躊躇する方が減っていくのではないでしょうか。
残念ながら、今の日本は社会全体で子どもを育てる意識が足りないように感じます。
子供を持つ家庭に対する手当てや控除額は、先進国に比べて少ないのが実情です。それは、出産を躊躇する気持ちや、子どもの人数にも影響を与えますし、実際に、「子供は1人で構わない」や「3人目はあり得ない」と考える人たちは多いです。
児童手当の増額、託児施設の増設、産婦人科の医師の増員をする必要がありますが、この高齢化社会においては、子供への財源は高齢者が使う社会保障費に流れているのが実情です。その結果、未だに待機児童は減らず、産婦人科と小児科は医師不足でなくなりつつあります。
今の日本は、子供の保育や教育への予算の増額、子育て制度の充実、女性が職場復帰しやすくなる環境つくり、など出産や子育てに対する日本全体の意識改革が急務ですね。
まとめ
以上、出産と年齢について、いくつかの視点からお話をしてきました。
女性にとっては、出産は一生を左右するほどの大きな出来事です。しかし、そこにはどうしても「年齢」というものが付きまとってしまいます。
出産と年齢に関して、数字で表せる部分をいくつかご紹介しましたが、その時代ごとに背景も価値観も変わります。確かに、年齢による影響はありますが、数字はあくまで数字です。
ひとりひとり、妊娠するまでの過程も、妊娠してからの過程も、さらに、出産も十人十色です。ですので、これらの数字、また、年齢が出産に与える影響など頭の片隅に入れながら、年齢という「数字」にあまり神経質にならず、「自分はどのように生きていきたいのか」、自分ができるベストな選択をしていきたいですね。