妊娠・出産時の医療保険の還付-高額療養費制度のポイントまとめ【2021年度版】
基本的に妊娠・出産でかかった医療費は「健康保険適用外」となり、全額自己負担となります。しかし、帝王切開などトラブルのある妊娠・出産の場合、健康保険が適用され、さらに「高額療養費」としてお金を貰う(還付)こともできます。
今回はそんな「高額療養費制度と妊娠・出産」について「制度の仕組み」「自己負担限度額」「申請手続き」「確定申告での注意点」「高額療養費貸付制度」などなど、詳しく解説していきます。
もくじ
高額療養費制度とは?
そもそも高額療養費制度とは「健康保険がきく治療をした人で、月初から月末までにかかった自己負担額が高額になった場合に、自己負担限度額を超えた部分が払い戻される(還付)」という制度です。
妊娠の経過が順調で正常な出産をすることができれば、「出産育児一時金」などの給付金の制度によって大部分は補うことができるので、自己負担額が高額になる事はありません。
しかし、帝王切開や切迫早産などのトラブルがあった場合には、追加費用が発生するために自己負担額が高額になることもあります。そんなケースにおいて、払い過ぎた医療費を返還してくれるのが高額療養費制度で、収入が低い人ほど多くの金額を貰えるので「出産したいけど経済的にキツイ!」という人にはとても嬉しい制度です。
帝王切開の他に妊娠・出産で健康保険が適用されるケース
高額療養費制度の対象となるのは「健康保険のきく治療」です。
最初に
- 基本的に妊娠・出産でかかった医療費は健康保険適用外
- 帝王切開などトラブルのあるケースでは健康保険適用
と説明しましたが、帝王切開の他の「トラブルのあるケース」についても気になるところでしょう。そこで、妊娠・出産で健康保険が適用される「トラブルのあるケース」を具体的にご紹介します。
【妊娠中】
つわり(重症妊娠悪阻)/切迫流産/流産/切迫早産/早産/子宮頸管無力症/妊娠高血圧症候群/前期破水/逆子や前置胎盤の超音波検査/児頭骨盤不均衡の疑いでのX線撮影/合併症など
【出産・入院中】
微弱陣痛での陣痛促進剤の使用/死産/止血用の点滴/吸引分娩/鉗子分娩/帝王切開/無痛分娩の麻酔/新生児集中治療室への入院など
以上のようなケースの場合では、健康保険が適用され、高額療養費の支給対象となります。
※あくまで健康保険の適用範囲内ですから、差額ベッド代、食事代、先進医療費などの保険外の負担分は対象とはならないのでご注意を!
高額療養費で貰える(還付)金額は!?自己負担限度額と計算方法について
高額療養費制度を利用することで、どのくらいの金額を貰うことができるのか解説します。
まず、所得と自己負担限度額の関係を確認してみましょう。あなたの世帯所得によって自己負担限度額が次のように異なります。
所得区分 | 自己負担限度額 |
①区分ア (標準報酬月額53万~79万円の方) |
252,600円+(総医療費―842,000円)×1% |
①区分イ (標準報酬月額53万~79万円の方) |
167,400円+(総医療費―558,000円)×1% |
①区分ウ (標準報酬月額53万~79万円の方) |
80,100円+(総医療費―267,000円)×1% |
①区分エ (標準報酬月額26万円以下の方) |
57,600円 |
①区分オ(低所得者) (被保険者の市区町村民税の非課税の方) |
35,400円 |
例えば、標準報酬月額40万円のご家庭で、入院・分娩費の総医療費が100万円、自己負担額が30万円だったとすると…
【区分ウ】80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
の計算式が適用されるので
自己負担限度額=80,100円+(1000,000円-267,000円)×1%=87,430円
となり、自己負担限度額よりも払い過ぎた分212,570円(300,000円-87,430円)を貰うことができます。
所得の少ない人ほど自己負担限度額が小さくなり、払い戻しされる金額が大きくなります。つまり、高額療養費制度は【「経済的に厳しい!」という人ほど少ない医療費で済む】という理に叶った制度と言えるでしょう。
高額療養費の申請手続き5ステップ
それでは次に、高額療養費を貰うまでに、どのような手続きをすれば良いのか解説します。申請手続きの方法は「事後申請」「事前申請」の2パターンがあります。
事後申請の手続きの流れ
- 【Step1】病院の窓口で総医療費の3割をいったん支払い、領収証をもらっておきます。
- 【Step2】健康保険(国保の場合は役所)で申請書をもらい、高額療養費の支給を申請します。
- 【Step3】健康保険(国保の場合は役所)から高額療養費が振り込まれます。
事前申請の手続きの流れ
- 【Step1】入院予定期間を病院で確認し、健康保険で申請書をもらい提出します。
- 【Step2】健康保険(国保の場合は役所)から限度額適用認定証が発行されます。
- 【Step3】病院で支払う際に認定証を提示すると、自己負担限度額までの請求になります。
高額療養費はすぐに貰えるわけではないので、「経済的な負担はなるべく避けたい!」という場合は事前申請をしていおくことをオススメします。
確定申告における高額療養費の取り扱い注意点
高額療養費は支払った医療費が払い戻しされるというものなので、所得には該当せず、確定申告をする必要はありません。
ただ、医療費控除を受ける場合は、高額療養費として受け取った分は医療費から差し引かなければなりません。
例えば、先ほどの金額の項目の例で言えば、
- 自己負担額:300,000円
- 自己負担限度額:87,430円
- 高額療養費:212,570円
医療費控除の費用として申請できるのは300,000円ではなく、高額療養費を差し引いた87,430円ということです。
ちなみにこれは、出産育児一時金も同様の扱いです。入院・分娩費のために42万円が支給されますが、医療費控除で申請できるのは42万円を差し引いた金額のみです。
お金がなくても安心!高額療養費貸付制度について知っておこう!
あらかじめ高額な医療費がかかると分かっていれば、高額療養費の「事前申請」をすれば問題ありませんが、妊娠・出産においては急なトラブルが起こることも多いです。
その場合は、基本的には「事後申請」となり、一時的に自腹で医療費を支払い、後日高額療養費を申請する流れとなります。
ただ、実際にお金が振り込まれるのは3か月後とかになるため、「経済的な問題で支払いができない!」というケースもあるようです。
そんな時にオススメなのが「高額療養費貸付制度」です。高額な医療費のための費用が必要な場合に、高額療養費が支給されるまでの間、無利子でお金を借りることができます。(8割相当額まで)
お金の返済は、高額療養費として貰える給付金が返済金に充てられ、残額が銀行口座に振り込まれることになります。簡単に言えば、高額療養費を前借りできるということ。
これは出産費貸付制度と同様の仕組みで、「医療費を支払う余裕がない!」という人には、とても助かる制度と言えるでしょう。(参照:[出産育児一時金]貰える金額や申請手続きの注意点まとめ)
月をまたいだ場合、高額療養費が貰えないこともある!?
最初に説明したように、高額療養費制度は「月初から月末までにかかった自己負担額が高額になった場合に、限度額を超えた部分が払い戻される」という制度。1ヵ月単位で医療費が計算されるため、月をまたいだ場合には、月ごとに分割されることになります。
そうすると、高額療養費もそれぞれの月ごとの申請となり、残念ながら払い戻しされるお金が少なくなったり、全く貰えなくなるケースもあるんです。
例えば、8月29日に入院し8月30日に帝王切開で出産、9月8日に退院したとします。
・入院・分娩費の自己負担額:150,000円
(内訳 8月:75,000円 / 9月75,000円)
・自己負担限度額:80,000円
だった場合に、8月9月それぞれの医療費が限度額80,000円を超えないため、高額療養費は0円、全く貰えないことになります。本来なら差額70,000円の高額療養費を貰えるはずなのに、月をまたいでしまったために貰えなくなるという典型的なパターンです。
残念ながら仕組み上どうにもならない事なので、なかったものとしてあきらめるしかありません…。
まとめ:お金を貰える制度を知っておこう!
以上、妊娠と出産に関わる「高額療養費制度」のことについて解説してきました。
経済的な余裕がない場合、妊娠・出産において「何かトラブルがあったらどうしよう。お金が払えないよ…。」と不安になるかもしれません。でも、「所得の少ない人ほど自己負担額を少なくできる」という高額療養費制度があるので、とても大きな安心材料となることでしょう。
妊娠と出産の費用に関しては、高額療養費制度の他にも「お金を貰える制度」がいろいろとあります。制度をしっかり知っておくだけで得することは多いので、是非チェックしておいていただけたらと思います。詳細は次の記事をご参照下さい。
→出産費用は平均100万!?大幅に節約できる13の制度まとめ
こういった制度をしっかり利用して、ママや赤ちゃんのために有効活用していただけたら幸いです。